民法(債権法)改正の要点5


 

  

  10 債権

   ⑵ 総則―多数当事者の債権及び債務-保証債務

    ア 保証人の責任等(第446条)

      保証人保護の観点から、平成16年の改正において、保証契約は書面(第2項)、
     電磁的記録(第3項)によらなければ効力を生じないと規定しました。
      今般の改正では、実質的な変更はありませんが、第3項から電磁的記録の定義を削
     除しています。これは、改正法第151条第4項に定義規定が登場していることによ
     ります。

    イ 保証人の負担と主たる債務の目的又は態様(第448条)

      改正法は、第2項として「主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重さ
     れたときであっても、保証人の負担は加重されない。」とする規定を新設しました。
      これは、保証債務の付従性についての従来の解釈を明文化したものです。

    ウ 主たる債務者について生じた事由の効力(第457条)
    
      第457条は保証債務の付従性についての規定ですが、改正法の第1項は、時効制
     度の改変に伴い、「時効の中断」とされていたのを「時効の完成猶予及び更新」と変
     更しました。
      第2項は、「保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者
     に対抗することができる。」と規定し、解釈に委ねられていた相殺以外の抗弁権につ
     いて、判例・学説の考え方を明文化しました。
      第3項は、「主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有すると
     きは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度におい
     て、保証人は債権者に対して債務の履行を拒むことができる。」と規定しています。
      これは、改正前の第2項で規定されていた相殺権の他、規定のなかった取消権、解
     除権についても規定するとともに、相殺権等の行使ができるものではなく、履行を拒
     絶する権利があるに過ぎないことを明文化しました。

    エ 連帯保証人について生じた事由の効力(第458条)

      第438条(連帯債務者の一人との間の更改)、第439条第1項(連帯債務者の
     一人による相殺)、第440条(連帯債務者の一人との間の混同)及び第441条(
     相対的効力の原則)の規定は、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人につい
     て生じた事由について準用する。
      改正により請求は相対的効力になりました。更改、相殺、混同に絶対的効力効が認
     められるほかは相対的効力事由となります。

    オ 主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務(第458条の2)

      改正法は、主債務者の委託による保証人が請求したときは、債権者は、遅滞なく、
     「主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務
     に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期
     が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。」とする規定を新
     設しました。

    カ 主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務
                                  (第458条の2)
    
      改正法は、保証人が個人の場合に(第3項)、主債務者が期限の利益を喪失したと
     きは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2ヶ月以内にその旨
     を通知しなければならず(第1項)、その通知をしなかったときは、保証人に対し、
     期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を
     喪失しなかったとしても生ずべきものを除く)を請求することができない(第2項)
     とする旨の規定を新設しました。

    キ 委託を受けた保証人の求償権(第459条)
    
      改正法第459条第1項は、委託を受けた保証人が、弁済その他自己の財産をもっ
     て債務を消滅させる行為(債務の消滅行為)をしたときは、求償権を有するとし、求
     償額について、支出した財産の額が消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超え
     る場合は、その消滅した額に限られるとしました。
      なお、改正前の「過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け」たとき
     は、事前求償権を定める第460条に移され、統一的に整備されています。
      第2項は、改正前の規律が維持され、第442条第2項が準用されていますので、
     求償には、弁済日以後の法定利息、避けることができなかった費用その他の損害の賠
     償が含まれます。

    ク 委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権(第459条の2)

      改正法は、委託を受けた保証人が弁済期前に債務消滅行為をした場合の規定を新設
     しました。
      委託を受けた保証人が弁済期前に債務消滅行為をした場合は、主たる債務者がその
     当時利益を受けた限度で求償権を有するとし(第1項前段)、求償は、主たる債務の
     弁済期以後の法定利息及びその弁済期以後に債務の消滅行為をしたとしても避けるこ
     とができなかった費用その他の損害の賠償に限られる(第2項)としました。
      これは保証委託の趣旨に反しないよう、委託を受けない保証人の事後求償権と同等
     のもので足りると解されたことによります。
      なお、第1項後段は、相殺の原因を有していたために主たる債務者に求償し得ない
     保証人が、債権者から回収する手段として、その相殺によって消滅すべきであった債
     務の履行を請求することができると規定しました。
      第3項では、第1項の求償権は、主たる債務の弁済期以後でなければ行使できない
     として、判例法理を明文化しました。

    ケ 委託を受けた保証人の事前の求償権(第460条)

      改正法第460条第3号は、改正前の規定「債務の弁済期が不確定で、かつ、その
     最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき
     。」はほとんど利用されていないことからこれを削除し、「保証人が過失なく債権者
     に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき。」を第459条第1項からここに移
     しました。事後求償権と事前求償権をそれぞれまとめることによって整理したもので
     す。

    コ 主たる債務者が保証人に対して償還をする場合(第461条)

      改正前の第461条第1項で「前二条」とあったのを、改正法は「前条」と変更し
     たのみです。
      改正前も改正後も、第461条が事前求償の場合についての規定であることに変わ
     りありませんが、「過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け」たとき
     が第459条第1項から第460条第3項に移され、同条に事前求償権を定める規定
     が整理されたことによります。

    サ 委託を受けない保証人の求償権(第462条)

      改正法第462条第1項は、新設された第459条の2第1項を準用することにな
     りましたが、委託を受けない保証人が債務の消滅行為をした場合「主たる債務者がそ
     の当時利益を受けた限度で求償権を有する」ことに変わりはありません。
      改正法は、第3項を新設し、第459条の2第3項を準用して、主たる債務の弁済
     期以後でなければ求償権を行使できないことを明示しました。

    シ 通知を怠った保証人の求償の制限等(第463条)

      改正前の第463条第1項は、通知を怠った連帯債務者の求償制限の規定(改正前
     第443条)を準用していましたが、委託を受けない保証人の求償権の範囲は制限さ
     れていることから、改正法第1項は、事前の通知義務について、委託を受けた保証人
     に限定しました。また、通知について、「履行の請求」を受けたことではなく、「債
     務の消滅行為」をすることとしました。
      第2項は、改正前の規律が維持され、債務の消滅行為をした主債務者が「事後の通
     知」を怠ったために債務消滅行為をした善意の保証人は、自己の行為を有効とみなす
     ことができるとしています。
      改正前の第463条第1項は同第443条第2項を準用していましたが、保証人が
     主たる債務者の意思に反して保証したとき(求償権の範囲が制限されている。第46
     2条第2項)のほか、債務の消滅行為をした保証人が「事後の通知」を怠ったために
     主たる債務者が善意で債務の消滅行為をしたときも、主たる債務者はその債務消滅行
     為を有効とみなすことができます(第3項)。

    ス 個人根保証契約の保証人の責任等(第465条の2)

      改正前の第465条の2では「貸金等根保証契約」とされていましたが、改正法は
     「個人根保証契約」として、個人保証人が過大な責任を負うことのないように保証人
     保護を拡充する趣旨から、主たる債務が貸金等に限定されません。
      なお、改正前も個人のみが対象でしたので、その点に変わりはありません。
      個人根保証契約の保証人は、極度額を限度として責任を負い(第1項)、極度額の
     定めがなければ個人根保証契約は効力を生じず(第2項)、極度額の定めについて書
     面又は電磁的記録に記載又は記録する必要があります(第3項)。 

    セ 個人貸金等根保証契約の元本確定期日(第465条の3)

      改正法第465条の3第1項で、「個人貸金等根保証契約」を「個人根保証契約で
     あってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負
     担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(以下「個人貸金等根保
     証契約」という。)と定義し、改正前「貸金等根保証契約」とされていた文言を「個
     人貸金等根保証契約」と置き換えたもので、元本確定期日について内容的な変更はあ
     りません。

    ソ 個人根保証契約の元本の確定事由(第465条の4)

      改正法の第1項は、「個人根保証契約」についての元本確定事由につき定め、①債
     権者が、保証人の財産について、金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行
     又は担保権の実行手続きの開始があったとき、②保証人が破産手続開始の決定を受け
     たとき、③主たる債務者又は保証人が死亡したとき、としています。
      新設の第2項では、「個人貸金等根保証契約」について、前項の場合のほか、ⅰ権
     者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払いを目的とする債権についての強制
     執行又は担保権の実行手続きの開始があったとき、ⅱ主たる債務者が破産手続開始の
     決定を受けたとき、を加えています。
      したがって、「個人貸金等根保証契約」の元本確定事由については、改正前の民法
     と同一です。

    タ 保証人が法人である根保証契約の求償権(第465条の5)

      保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含ま
     れるものは、極度額規制及び元本確定期日の制限は適用されませんが、改正前も、当
     該根保証契約の個人による求償権保証については、極度額の定めがない場合等には無
     効として、個人保証人が過大な債務を負わないようにしていました。
      改正法第1項は、極度額規制の個人保証契約全般への拡大にあわせ、証人が法人で
     ある根保証契約の個人による求償権保証についても極度額規制を適用しました。 
      他方で、元本確定期日の規律が個人保証契約全般に拡大されなかったことから、元
     本確定期日に関する規律については、改正前と同様、主たる債務の範囲に貸金等債務
     が含まれるものに限定しています(第2項、新設)。
      第3項で、前2項は求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約等の保証人が法
     人である場合は適用されないことを明示しています。

    チ 公正証書の作成と保証の効力(第465条の6)

      改正法は、第465条の6を新設し、事業に係る債務について保証する個人を保護
     するために、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主た
     る債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その締結
     前1ヶ月以内に作成された公正証書で保証債務履行の意思を表示しなければ効力を生
     じないとし(第1項)、法人の保証人は除外しました(第3項)。

    ツ 保証に係る公正証書の方式の特則(第465条の7)

      新設された第465条の7は第465条の6の特則にあたり、口がきけない人の場
     合は、「通訳人の通訳による申述又は自書」によって「口授」に代えなければならず
     (第1項)、耳が聞こえない人の場合は、「通訳人の通訳」により「読み聞かせ」に
     代えることができ(第2)、公証人は、その旨を証書に付記しなければなりません
     (第3項)。

    テ 公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外(第465条の9)
    
      主債務者の事業状況を把握し得るなど保護の必要性が低い類型の保証人については、
     「保証意思宣明公正証書」の作成を不要としています。
      主たる債務者が法人である場合の役員又はこれに準じる者(第1号)、支配株主等
     (第2号)、主たる債務者と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現
     に従事している主たる債務者の配偶者(第3号)。

    ト 契約締結時の情報の提供義務(第465条の10)

      主たる債務者は、個人の保証人に「事業のために負担する債務」の保証を委託する
     につき、1号から3号に定める情報を提供しなければなりません(第1項、第3項)。
      また、主債務者が第1項各号の事項に係る情報を提供せず又は事実と異なる情報を
     提供したために、委託を受けた者が誤認により保証契約の申込み又は承諾の意思表示
     をした場合に、債権者が主債務者の情報提供義務違反を知り又はすることができたと
     きは、保証人は保証契約を取り消すことができます(第2項、第3項)。

    


 

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