民法(債権法)改正の要点3


 

  

  10 債権

   ⑴ 総則

    ア 特定物の引渡しの場合の注意義務(第400条)

      改正前の第400条は、「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、
     その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければなら
     ない」としていましたが、改正法は、「善良な管理者」の前に「契約その他の債権の
     発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」との文言を加えました。
      それにより、「善良な管理者」の意味・内容を明確化するとともに、契約以外の債
     務の発生原因である事務管理、不当利得、不法行為などについても適用されることを
     明示しました。

    イ 法定利率(第404条)

      改正前は、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率
     は、年5分とする」とされていましたが、改正法は、施行時の法定利率を3%とした
     うえで、3年ごとの変動制を採用しています。また、商事法定利率を廃止して民事法
     定利率に一本化するなど大きな改正がなされていますので、損害賠償実務等を中心に
     大きな影響が生じることになります。
      改正法では、次のとおりとなりました。
      「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利
     息が生じた最初の時点における法定利率による。」(第1項)
      「法定利率は、年3%とする。」(第2項)
      「前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を
     1期とし、1期ごとに、次項の規定により変動するものとする。」(第3項)
      各期における法定利率は、直近変動期における基準割合と当期における基準割合と
     の差に相当する割合(1%未満切捨て)を直近変動期における法定利率に加算、又は
     減算した割合となります(第4項)。
      基準割合は、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの
     各月における短期貸付けの平均利率の合計を60で除して計算した割合(0.1%満
     切捨て)として法務大臣が告示するものをいいます(第5項)。

    ウ 不能による選択債権の特定(第410条)
 
      改正前は、「債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至っ
     て不能となったものがあるときは、債権はその残存するものについて存在する。」
     (第1項)とし、「選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったとき
     は、前項の規定は、適用しない。」(第2項)としていました。
      改正法は、「債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不
     能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものに
     ついて存在する。」と規定しました。
      選択権を有する者の過失による場合以外の不能については、給付が特定せず、選択
     権者は不能の給付を選択することができ、契約を解除するという方策をとることがで
     きることになります。
      なお、改正前は、「原始的不能」と「後発的不能」を区別せず有効であることを前
     提にしたうえで債務不履行を問題としていたものですが、単に「不能のものがある場
     合」とされた結果、そうした歴史的な意味合いが薄れてしまうという見解も示されて
     います。

    エ 履行期と履行遅滞(第412条)
 
      改正法は、改正前の第1項、第3項はそのままに、第2項について次の下線部分を
     付加しました。
      「債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後
     に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時
     らその遅滞の責任を負う。」

    オ 履行不能(第412条の2)

      改正法は、履行不能の場合債権者が債務の履行を請求できないことを明文化し、履
     行不能についても判断基準を明示しました。
      「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能
     であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。」(第1項)
      また、原始的不能の場合、従来契約は無効と解されていたところ、改正法は有効を
     前提として損害賠償請求ができる旨規定しています。ただし、当然には契約は無効に
     なるものではないと解すべきものでしょう。
      「契約に基づく債務の履行が契約の成立の時に不能であったことは、第415条の
     規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」
     (第2項)

    カ 受領遅滞(第413条)

      受領遅滞については、判例・学説により三つの効果が認められてきたところですが、
     改正法はこれを明文化しました。
      受領遅滞(債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場
     合)となった後は、特定物の引渡債務の債務者は、(善良な管理者の注意義務ではな
     く)自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
     (第1項)。
      受領遅滞によって増加した履行費用は、債権者の負担となる。(第2項)
      なお、三つ目の効果は第413条の2に規定されています。

    キ 履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由(第413条の2)

      改正法は、第413条の2を新設し、履行遅滞中の当事者双方に帰責できない事由
     による履行不能は、債務者に帰責事由があるとみなし(第1項)、受領遅滞中の当事
     者双方に帰責できない事由による履行不能は、債権者に帰責事由があるとみなすもの
     としました(第2項)。
      いずれも、従前からの解釈を明文化したものです。

    ク 履行の強制(第414条)

      改正法は、「債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法そ
     の他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その
     他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質が
     これを許さないときは、この限りではない」(第1項)として「その強制履行」とさ
     れていたものを、下線部のように修正しています。
      そして、改正前の第2項、第3項を削除しましたが、これらは、民法には実体的規
     定を残し、手続に関する規定については手続法である民事執行法に一元的に定めると
     いう趣旨によるものです。

    ケ 債務不履行による損害賠償(第415条)

      改正法の第415条第1項は、「債務者がその債務の本旨に従って履行をしないと
     き又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を
     請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及
     び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるもの
     であるときは、この限りでない。」として下線部分を改正前の規定に付加し、「債務
     者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とす
     る」としていた文言を削除しました。
      これにより、債務不履行があれば損害賠償義務があることを原則とし、債務者に帰
     責事由がないときに例外的に免責されることとなって主張立証責任が明確化され、ま
     た、帰責事由の判断基準を契約の趣旨に求めることが明らかにされました。
      改正法は、第2項で、履行に代わる損害賠償(填補賠償ともいわれる)の要件とし
     て、債務の履行が不能であるとき(1号)、債務者がその債務の履行を拒絶する意思
     を明確に表示したとき(2号)、債務が契約によって生じたものである場合において、
     その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき(3号)
     を挙げ、明文化しています。

    コ 損害賠償の範囲(第416条)

      損害賠償の範囲を定める第416条のうち、第1項の「通常生ずべき損害」に係る
     規定はそのまま維持しましたが、改正法は、「特別の事情によって生じた損害」を定
     める第2項につき「当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、
     債権者は、その賠償を請求することができる」としていた下線部を「予見すべきであ
     ったとき」と改めました。
      第2項については、主観的・事実的な基準から客観的・規範的評価に改められたと
     いうことになりますが、実際には従前と解釈が変わるところはないと考えられている
     ようです。
      予見の主体、予見時期、予見の対象についても、引続き解釈に委ねられることにな
     ります。

    サ 中間利息の控除(第417条の2)

      中間利息控除は民事法定利率によるとする判例に拠っていましたが、改正法は第4
     17条の2として中間利息控除についての規定を新設し、中間利息控除をすべき場合
     の利率の基準時を、その損害賠償請求権が生じた時点としました。法定利率につき変
     動制を採ったことに関連する規定です。
      「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、そ
     の利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償請求権が生
     じた時点における法定利率により、これをする。」(第1項)
      「将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、そ
     の費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。」
     (第2項)

    シ 過失相殺(第418条)

      改正法は、「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者
     に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定
     める。」として、旧法の規定に下線部を付加し、判例・学説の解釈を条文上明確にし
     ています。債権債務関係が前提となる債務不履行については、損害軽減義務の発想が
     取り入れられているということができます。

    ス 金銭債務の特則(第419条)

      改正法第419条第1項は、「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、
     その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によ
     って定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるとこは、約定利率による。」とし
     て、旧法の規定に下線部を付加しましたが、これは、法定利率について変動制が採ら
     れたことによるものです。第2項、第3項は改正前のままです。

    セ 賠償額の予定(第420条)

      改正法第420条第1項は、「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予
     定することができる。」とし、それまでの後段の(この場合において、裁判所は、そ
     の額を増減することができない。)との文言を削除しました。
      賠償額の予定と実際の損害に相違があっても裁判所は賠償額の予定に拘束されます
     が、明らかに過大な賠償額の予定については、利息制限法、消費者契約法等の特別法
     や公序良俗違反、過失相殺の法理などにより無効や制限が及ぶことから、誤解を招く
     ことのないように削除されたものです。

    ソ 代償請求権(第422条の2)
  
      改正法は、第422条の2として代償請求権の規定を新設し、判例・通説の立場を
     明文化しました。
      「債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の
     代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度に
     おいて、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。」



  


 

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